糖尿病の食事療法と運動療法

糖尿病の食事療法と運動療法

糖尿病治療において、食事と運動の管理は必須事項です。
Ⅰ型、Ⅱ型、重症、軽症、性別、年齢、体型といった諸々の個人差は関係なく、糖尿病と診断されたほぼ全ての方へ、投薬よりも先にこれらの実施が進言されます。
食事と運動、すなわち生活習慣の見直しによって十分な改善効果が得られれば、医療機関を受診する必要がなくなりますので、こまめに通院する手間や薬代はかかりません。
自分の頑張り次第で疾患に打ち勝つことができるのですから、経済的にも精神的にも安心です。
ここでは、食事療法と運動療法について詳しく見ていきたいと思います。

食事療法とは?

糖尿病(高血糖)は、体内で血糖値を下げる働きをするインスリンの活動量と、体内を巡る糖質の量のバランスが崩れた際に引き起こされます。
そして、1日の中で血糖値が最も大きく変動するのは食事の前後なので、食生活の見直しが効率的な血糖値のコントロールに繋がるのでは?という着想から食事療法が提唱されるようになりました。
服薬やインスリン注射をしていても、身体がそれらに順応できなければ安定した効果は期待できません。
食事療法は、肥満や血糖値の上昇を抑えつつ、インスリンが作用しやすい身体を作ることが目標です。

食事療法の実践

食事療法で大切なのは、自分に合った食事量を、1日3回の規則正しい時間帯に、栄養バランスを考えながら摂取することです。

食事量について

自分にあった食事量は、ご自身の身長や体重、年齢、運動量などの情報から目安を導き出すことができます。
日本医師会が紹介している計算式は下記の通りです。

1日に必要な推定エネルギー必要量 =
基礎代謝量 × 身体活動レベル

必要以上のカロリーを摂取すると、その分だけ膵臓に負担がかかり、インスリンの働きに影響を及ぼします。
まずは、普段の食生活をメモにまとめるなどして、改善点を探してみましょう。

参考サイト:糖尿病診療ガイドライン2019「糖尿病診断の指針」

肥満を回避するために

毎日不規則な時間帯に食事を摂っていると、体内で栄養素を脂肪として蓄えようとする働きが強くなり、肥満の原因となります。
その結果、インスリンを作り出す細胞の働きが弱まり、血糖値の上昇へと繋がってしまうのです。
また、栄養の偏りも同じく肥満の原因となる恐れがあります。
人体の活動のエネルギーとなる炭水化物の他、たんぱく質、脂質、ミネラル、ビタミンといった不足しがちな栄養素もきちんと摂取できるメニューを検討して下さい。
単なる減量とは違い、食事療法において「食べてはいけない食品」や「絶対に食べなければならない食品」はありません。
だからこそ、しっかりと食に関する理解を深め、バランスの良い食生活を心掛けていく必要があるのです。

これらの他にも、いくつかポイントがあるので確認しておきましょう。

  • 食事は腹八分目に抑える(満腹状態になるまで食べない)
  • よく噛んでゆっくり食べる
  • 食べる順番にも注目(野菜→汁物→主菜→炭水化物の順に食べると糖の吸収が緩やかになるのでおすすめ)
  • 寝る前や深夜には食べない
  • 間食を控える
  • アルコールもなるべく控える(血糖値を乱す可能性があるため)

とは言え、いきなりこれら全てを網羅するのは難しいと思います。
できることから少しずつ挑戦し、習慣付けていくことが重要です。
ご自身に合うやり方で、無理なく続けられるように工夫しましょう。

運動療法とは?

Ⅱ型糖尿病発症の主な原因は、過食、肥満、運動不足です。
それらの解消には、過食と肥満の対策として食事療法を、肥満と運動不足の対策として運動療法を、それぞれ並行して実施することが推奨されています。
特に運動療法は、エネルギーの消費と筋力アップによってインスリンの働きを助けると共に、ストレスの解消にも繋がるので、心身の健康の維持に効果的です。

運動療法の実践

糖尿病治療において推奨されている運動には、有酸素運動とレジスタンス運動の2種類があります。

有酸素運動

身体に軽い負荷のかかる運動を長時間行い、酸素を使って脂肪の燃焼を促進させます。
ウォーキングやジョギング、自転車の利用、階段昇降、水泳といった全身運動を定期的に実施すると効果的です。
目安として、ウォーキングであれば日常生活における歩数と合わせて1日1万歩程度の歩行(160 kcalから240kcalの消費)が理想とされています。
治療目的ではありますが、いきなり極端に激しい運動を始める必要はありません。
逆に、糖尿病を発症している方が唐突に激しい運動を行うと症状を悪化させる恐れがあります。
ご自身の体調管理を優先しながら、無理のない範囲で継続できる運動を検討しましょう。

忙しくて十分な運動をする時間が取れない方でも、普段の行動を見直すだけで、日常生活の中に運動を取り入れることは可能です。

  • エレベーターやエスカレーターの使用をやめ、階段を使う
  • 電車やバス、自動車での移動をやめ、自転車や徒歩で移動する

など

レジスタンス運動

主に筋力アップを目的としたトレーニング、いわゆる筋トレを指します。
重めの負荷がかかる運動は若者向けのイメージがありますが、怪我や転倒の予防、脳の活性化などの効果が期待できるため、実は高齢者にもおすすめの方法なのです。
糖尿病治療の観点では、筋肉量が増えることで糖の代謝が促進され、インスリンの効果が高まり、血糖値の低下へと繋がります。
ジムにあるようなダンベルや専用のマシンを使用する本格的なものから、自宅でもすぐに始められる自重トレーニングまで幅広いメニューがありますので、ご自身の体力や筋力に見合った方法を探してみましょう。
ただし、激しい運動は心臓に負担をかけるのでご注意下さい。
また、身体を動かしたからと言って、その後の食事の量を過剰に増やしてしまうと十分な効果が見込めなくなってしまいますので、食事の管理も並行して行いましょう。

医師への相談

医師への相談

食事療法も運動療法も、糖尿病(高血糖)という疾患の症状を改善するための治療の一環です。
そのため医薬品の服用などと同じように、適切な取り組み方や注意点などがあります。
間違えた方法を続けると、身体に余計な負担をかけ、症状を悪化させる可能性もありますので、まずは医療機関を受診して専門の医師へ相談してみることを強く推奨します。